しゅばいん・げはぷと

こんにちは……(全てネタバレ)

『万引き家族』vs.『デッドプール2』

万引き家族』と『デッドプール2』を見たので、それらの感想。


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まずは『万引き家族』だが、まぁ是枝監督だから素晴らしいのは当たり前。物語は意外なことに(?)ミステリー的な見せ方をしていて、ずばりこの「万引き家族」の成員の素性が絶妙な塩梅で明かされていく構成になっている。彼らの素性が完全に明かされた時、我々がそれまで持っていた万引き家族に対する共感・好印象が(少なくとも半分は)ひっくり返されることになる。最初は「万引きをしている心温かい家族」を見せることで世間的な良さを相対化・弱体化させるわけだが、万引き家族もやはり決して褒められたものではなかったことをまざまざと見せつけてこちらもまた相対化され、結果、観客は不安定な地平へと放り出されることになる。あぁ、そもそも万引き家族の崩壊のきっかけは成員の一人である少年が正義に目覚めてしまったことに、自分らを相対化してしまったことにあったのだった。そしてその結果がどうであれ、それが良くなかったともやはり言えないのである。
 十分楽しんだし、傑作と言われてもなんの違和感もないが、前作『三度目の殺人』でも感じたが、是枝監督にしてはテーマがやや単純。いや、単純というよりも理屈っぽい。今作について言えば(いや、前作もそうかな?)「正しくないことが正しいことであることも時にはあるのではないか」といったテーマをかなりわかりやすく提示している(特にラストシーン!)。ただそれが、テーマを「感じさせる」と言うよりは、あくまでもその文言を「見せられている」ようなわかりやすさなので物足りないといえば物足りない。「正しくないことが正しいことであることも時にはあるのではないか」というメッセージ自体は「正しすぎるほど正しい」だけだからである。是枝監督、社会的責任というものを(もともと持っていただろうが)より強く感じるようになったのかなあ?


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デッドプール2』も見た。前作が全然面白くなかったのに、どうしても気になってみてしまった(自分の感覚が変化しているかどうかを知りたかった)。
まぁ、前作よりは良かったかなぁ。ギャグも80%はただただつまらなかったり・細かいサブカルネタなんて知る由もないから(知る必要も全く感じないから)笑えなかったりしたけど、はっきりと笑ってしまうところもあった。ただ、あの次々と繰り出されるメタ視点ギャグは全部さむかったなぁ。あれがなかったらもう少し面白くなってるんじゃないのかな。別に全てのメタフィクションがつまらないわけじゃないと思うが、今作は別にメタフィクションを活かした物語展開もないんだし、メタギャグはただ単に浮いていて、ただただシラケさせる役割しかなかったように思う。ただ、こういうゆるさ(半端な面白さ)を多くの観客は意外にも求めているのだろうとも思うし、実はそれはそんなに悪いことではないのかもしれない。まず第一に、「映画に過ぎないもの」に、「物語に過ぎないもの」に本気になってしまってはいけないという面は確かにあるからであり、第二に、虚構と現実の入り混じりや語り部の出しゃばりは、現代ではルール違反なだけで、私見だと昔(19世紀以前?)の小説なんかでは当たり前だったんじゃないかと思うからである。最も、昔は当たり前だったのだから、こういうデッドプールみたいなものが「新しい」と言われているとしたら、それは違うと言いたくなる。むしろ古臭い。なんかテレビのバラエティー番組を見ているような気分になってくる。

しかし、どちらの映画も「正しくないことが正しいことであることも(時には)あるのではないか」だったなぁ! 万引き家族はそれを「説明する」のに対して、デッドプールはそれを「示す」方向なのでその点はより好ましいのだが、もう少し面白ければなぁ!