しゅばいん・げはぷと

こんにちは……(全てネタバレ)

『ジョジョ・ラビット』

ジョジョ・ラビット』はいい映画だった。

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映画の内容そのものにはなんの文句もないのだが、あえて気になるところを挙げるとすれば、原作との関係である。この作品はアカデミー賞の脚色賞を受賞したわけだが、原作の紹介文やレビューを読んでみたところ、かなり映画とは違ったテイストらしい。おそらくだが、原作はかなり「ダークな」作品で、人間の心の暗部を描いたような作品になっているようだ。映画中でも、戦争が終わったと知られてしまったら匿っていたユダヤ人の女の子がどこかに行ってしまうと主人公が気づいてその女の子にドイツが勝ったと嘘を付くという描写があり、なかなかキツイ展開だなあと思っていたが、ここなんかが典型的に原作の味なのだろうし、なるほど確かにいくらでもよりエグい話にできる(し、実際原作はそうなのだろう)。そう思ってみると、映画はあっさりし過ぎの感がないでもない。

ところで私が気になってしまうのは、この「原作は毒たっぷりで、映画は毒抜きされている」という(半分)推測が正しいとして、どちらのほうがより「いい作品」かという問題である。言い換えるなら、フィクションにおける陰惨さや残酷さは鑑賞者に対して、または現実世界に対していい影響を及ぼすのだろうか。

 

フィクションで描かれる(過剰な)陰惨さや残酷さを肯定するときの理屈で最もポピュラーなのはおそらく、「現実世界の陰惨さや残酷さを理解するのに役に立つ」というものだ。理解して、賢くなって、現実世界によいフィードバックをもたらす、と信じている人たちがいる。私自身はこれをかなり疑っているが、とはいえバラ色一色の夢物語などを見せられて何かが良くなる気もしない、というか、そもそも全く面白くないだろう(から、よくもないだろう)。『ジョジョ・ラビット』はそんなに単純な味わいではないからご安心を。