しゅばいん・げはぷと

こんにちは……(全てネタバレ)

『生まれてこないほうが良かった 存在してしまうことの害悪』誤訳報告

 

生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪

生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪

 

 

『生まれてこないほうが良かった 存在してしまうことの害悪』の誤訳を報告する。というのも、訳者の方が後書きで、誤訳を見つけたらメールで報告してください、と書いていたので私は報告したのだが、もう出版から1年以上経ってるからそのメアドをチェックしていないのだろうか、ともあれ何の音沙汰もない。というわけで、もったいないからここにメール書いたものをほとんどそのまま転記する。なお、私が英語で読んだのは2章と3章だけで、3章については部分的にしか英語で読んでいない。また、途中から面倒になってかなり雑な指摘の仕方になっている。

p.36,1-4,「 酷い障碍のある人のケースで彼が考えているのは、 決して存在しないことの方が良いという判断は充分に道理にかなっ ているわけではないということだ。 その判断は道理に押し付けられている(道理に必要とされている) に違いない」の「〜は充分に道理にかなっているわけではない」 と「道理に押し付けられているに違いない」 というのは誤訳だと思います。前者はit is insufficient that the judgement of the preferability of never existing be consistent with reason.なので、that以下だけでは充分ではない( insufficient)という意味になるはずで、つまり、「 〜は道理にかなっているだけでは充分ではない」となるはずです。 充分でないのですから、(後者の話に移りますが)「 道理に押し付けられ(あるいは必要とされ)なければならない」 のです。原文はit must be dictated (or required) by reasonで、 mustの意味の取り違えが起きていると思われます。


p.41,21-23,「 私たちには子作りをする義務があるという見解を他の方法で説明す ることによる反論も退けられるかもしれないーーそうした説明はひ とつも、(3)(4) の間にある非対称性に関する私の主張に訴えてこないのだ」 は誤訳だと思います。原文はit might be  objected that there is an alternnative explanation for the view about our procreational duties--one that does not appeal to my claim about the asymmetry.ですが、ダッシュの直後の「one」は「 an alternative explanation」と同格であることと、 objectには「〜を反論として挙げる」 という意味があることを考慮すれば、訳は「 私たちの子作りにおける義務についてのこの見方に対しては他の説明 が――非対称性に関する私の考えを必要としない説明が――ある、 という反論が出てくるかもしれない」 というような感じになります。

 


p.42,16-18,「けれども、 存在するかもしれないがまだ存在していない人々の利害が、 場合によっては無効化できる、 その人々を存在させる義務を根拠付けることなどできるはずがない 」→「けれども、存在するかもしれないがまだ存在していない( possible)人々の利害は、 場合によっては取り消しにできるような義務さえも根拠付けられな い」


p.50,19の「ある可能性」はダッシュ前の「 シナリオBにおける〜扱われている点」と同格であって、 そのようなものとしてここらへんの文は変える必要があるのではな いでしょうか?


p.52,24-28,「というのも〜常に考えられるだろう」→ 「というのも、 なぜ存在する人々のみを含むたとえ話においては不在の内在的善は 常に悪とされ得るのか、 ということについてはもっと深い説明があるからだ。 それらの人々が存在しているという条件なら、 どんな内在的善の不在だろうがそれは、 いつだって彼らにとっての剥奪だとされうるのである、 というのがその説明である。」(最後の「 というのがその説明である」という箇所は蛇足かもしれません)


p.54-55を跨ぐ箇所「 シナリオAは勿論シナリオBを考える場合も」→「 シナリオAだけでなくシナリオBも考慮する人は」(主眼は、「 両方を」考えることにあると思います)


p.59,下から4行目「ある人が大きな害悪を望んでいる証拠」 →「ある人が反対のことを望んでいる証拠」(こちらの方が、 誤解を招かないと思います)


p.68,下から2行目の太字「現に」→「今現在( currently)」


p.95,16-17「勿論私は〜実際には反対だ」→「 勿論私は、 12歳がやった課題はその年齢に適した基準で評価するべきだとい うことを否定しない」


p.96,1-2「想像可能な範囲で幸福な人生」→「 想像できる限り幸福な人生」(つまり、とても幸せな人生)


p.96,11-12「 自分には最高に優れた特性が何もないと自認している人物」→「 自分が最高に優れた特性を持っていることに気づかない人物」


p,102、下から10,9行目「子どもに命を宿す」→「 子どもを誕生させる」