しゅばいん・げはぷと

こんにちは……(全てネタバレ)

『ミスター・ガラス』は一線を超えて……

シャマランは結構好きだが、『ミスター・ガラス』は微妙だった。
f:id:hr-man:20190124190246j:image

今作を見るにあたって『アンブレイカブル』と『スプリット』を見たのだが、初見だった『スプリット』にはやられた。(世評に反して?)『ヴィジット』がつまらなかったこともあり『スプリット』は見ていなかったのだが、なかなかどうして、(傑作とは言わないが)良作であった。もっと言うと、要は泣いてしまったのである。徹底的に傷つき、自分の存在意義がわからなくなってしまった男が、必要にかられて自分の存在意義を「捏造」し、その「嘘」を無理矢理「実現」してしまう哀しさ、そうまでしないと生きられない哀しさに胸を打たれた。彼が、同じく傷を負った少女を「傷を負っているからこそよい」とするのは、端的に間違いであろうが、しかしそんな風に歪まなければ彼は生きられなかったのである。こう書いてみると傑作とさえ言えるような気がしてくる。本当に超人的になってしまったことに賛否はあるだろう。というのも、「捏造」が「捏造」にすぎないままだからこそ、彼の間違いは際立ち、それ故に「哀しい」のだから。とはいえ、そこはエンタメ的サービスだと思えば(少なくとも『スプリット』に関しては)よいと思う。のだが、この辺の甘さが前面に出たのが『ミスター・ガラス』であるのは間違いない。

『ミスター・ガラス』の問題点は、1)ミスター・ガラスの「哀しさ」が描かれていないことと、2)「捏造」が完全に正当化されてしまうことにある。一つずつ見ていく。

1)については、前作で充分、歪まなくては生きられなかった人間(ミスター・ガラス)の「哀しさ」が描かれているという反論があるかもしれないが、それにしてももう少し彼の切実さを本作で描いてもらわなければ、最後のあれカタルシスにならない。また、彼はめちゃくちゃ頭がいいという「スーパーパワー」を持っていることになっていたが、『アンブレイカブル』でもそう説明されていただろうか? これは後付ではないだろうか? そうでないにしても、そもそもこれは必要だったのだろうか? 明らかに必要がない。というのも、彼はおよそスーパーパワーとは真逆の人間であり、それゆえにスーパーヒーローの存在を夢想し(て、本当に見つけ)て、自分の存在の「位置」を決めることができたというのが「哀しさ」のポイントだったからである。

しかし、さて、ミスター・ガラス周りのこれらの問題点が片付けられたとしても、最後のあれに感動できたかどうかは微妙である。それこそが2)が示している問題点だ。

アンブレイカブル』と『スプリット』においては(特に後者はそうだ)、スーパーパワーは「捏造」か、それとも「実在」かという点に関してギリギリのバランスが保たれていた(そもそも、彼らの能力はショボい)。つまり、スーパーパワーが傷ゆえの「捏造」であると我々観客は半分は思っているからこそ、その「哀しさ」に胸を打たれ、その「実現」にカタルシスを感じたのだった(ちなみに『アンブレイカブル』に関しては、ガラスの方はこの話に当てはまるが、不死身男の方はもともとはこの話に当てはまっていなかったはずだ。しかし、『ミスター・ガラス』において、不死身男も過去のプールでのイジメにより「捏造」し始めたのでは、という設定が追加されている)。さて、今作『ミスター・ガラス』はこの「捏造」がラストに「真実」として人々に受け入れられるという展開になっているのだが、これは私としては、(悪い意味で)一線を超えてしまったように思われた。

(ある種の)人間は捏造された物語にしがみつくことでしか生きられないという事実には、私は深く心動かされる。しかし、その捏造された物語は真実なのだと吹き込まれるなら、私は全力で抵抗しなければならない。なぜなら、そうではないからである、それだけだ。スーパーパワーがあると言い張っている姿には、祈る姿に似て、時に何か心動かされるものがある。しかしその時、本当にスーパーパワーがあると私は説得されているわけではない(たとえ劇中でパワーを見せられても)。『ミスター・ガラス』はこの二つ、つまり「心動かされる」と「説得される」をごっちゃにしてしまって、(あえて言おう)失敗した。

ちなみに、いずれにしても、客観的にわかる仕方で自分が特別であると実感すれば救われると考えるのはよくないと思う。そんなもの(客観的にわかるなにか)がなくても、どうしたって、何をしても、何もしなくとも、そもそも自分は特別であると実感するしか楽になる道はないのではないか。どうしたって、何をしても、何もしなくとも、そもそも特別であることと、客観的にわかる仕方で特別であることの混合・混乱が、スーパーヒーロー妄想のようなものを生むのだろう(それは哀しい)。

 

スプリット (字幕版)

スプリット (字幕版)

 
アンブレイカブル(字幕版)

アンブレイカブル(字幕版)