しゅばいん・げはぷと

こんにちは……(全てネタバレ)

『THIS IS US 36歳、これから』

 

 

海外ドラマの『THIS IS US 36歳、これから』(のシーズン1)を見た。この手の話は長く続けるのは無理だろうと踏んでいたので、これで完結でなかったのは(見るのに休日を1日ちょっと潰した身としてはなおさら)ショックだった。今の時点でも長すぎだと感じたのに、シーズン2があるとは……絶対に見ないだろうなぁ。4話目ぐらいまでは格別に面白かったものの、(ほとんど全てのドラマシリーズがそうであるように)それ以降は意味ありげだが実はどうでもいいエピソードを注入して無駄に話が膨らむだけである。肥満の女がダイエットに挑戦しては失敗し、また挑戦しては失敗し、を繰り返したり、イケメン俳優が女優とくっつき脚本家とくっつき、その虚しさに気づいて元妻とくっつくが仕事の関係でまた二人は離れ離れになりそうだったり、赤ん坊の頃の自分を捨てた実の父親は余命幾ばくもないが中々死なず、その間に彼がバイセクシャルであることが判明したり……いくらなんでも散漫に過ぎよう(特にダイエットエピソードは全てがいらない)。とはいえ、各登場人物が抱える“主要な”問題についてのエピソードでは面白いところがかなりあったので、それに的を絞れていればかなりよかったはずなのに、と思いはするのだが(しかし、肥満の女は、見た目はかなりインパクトがあるにも関わらず、キャラの薄さが否めない。はっきり言っていてもいなくてもいいキャラだが、他のメインキャラ同様の時間を食う)。

今作の話し運びは結構特殊で(故に長くは続けてはいけないと思うのだが)、今はもう大人である三人きょうだいによる現在の話(しかも三人別々の話だったりする)と、彼らの親を中心とした家族の昔の話とが、なんとなくのテーマ的統一(例えば子育てなど)を持って並行的に語られる(つまり、多いときでは4エピソードが並行して語られるのである)。かなり凝った構成で、それこそがこの作品の肝だということは承知の上でだが、そのことはここでは問題にしない。私が問題にしたいのはむしろ、全編を貫く価値観の方だ。

といって、何か変わった価値観がにじみ出ていたのではない。たぶん連続して見たこともいけなかったのであろうが、この「ハートウォーミング」な雰囲気にはかなり辟易してしまった、ただそれだけである。「家族こそ全て」「愛こそ全て」云々かんぬん、およそ常識的に過ぎる価値観がこの作品の屋台骨であって、それが揺るがされることはない。もちろん家族「に関して」、あるいは愛「に関して」不幸な人間が登場しないわけではない。しかし、彼らが不幸なのは家族の、あるいは愛「ゆえに」ではない。彼らは「本物」ではない家族や、「本物」ではない愛ゆえに苦しんでいる(あるいはそもそも家族や愛がないから苦しんでいる)のであって、「本物」の家族や愛を得れば幸せになる、そのことがこの作品内で疑われることはない。あくまで愛や家族「に関して」苦しんでいるのであって、それら「ゆえに」苦しむことはあり得ない。「家族」や「愛」そのものがそもそも人を苦しめることもあるのではないか、という視点のとり方が完全に欠如しているのだ。それゆえに、今作の中でどんなに家族や愛「に関して」不幸な人間が出てこようと、「家族は大切」「愛こそ全て」という価値観の中での問題提起に過ぎないのであって、その価値観がその問題によって危うくされるどころか、それが一価値観に過ぎないということを見えなくさせてさえいるだろう。というのも、その問題は家族や愛が幸福の源泉であることを疑うわけではなく、そもそも幸福の源泉であるそれらが手に入らないがゆえに問題だと見なされてしまったのだから(すでにその価値観が前提されてしまっている)。

私は先に、「家族」や「愛」そのものがそもそも人を苦しめることもあるのではないか、と書いた。とはいえ、私はそのことを特に主張したいわけではない。そうではなく、「家族ないし愛こそ全て」という価値観が提示された時、必然的にその価値観の反対、つまり「家族ないし愛が問題の元凶」という価値観が想定されるのだから、せめてその2つの価値観の戦いを見たい、そのうちの1つの中で繰り広げられる「内輪もめ」などつまらない、と言いたいのだ。しかし、それらがそれぞれ1つの価値観に過ぎないという視点に立つことは、どういうわけか多くの人にとっては難しいらしいというのが、私の最近の社会でした発見である。そもそもそういう視点に立てないのか、立ちたくないだけなのか、それがどうにもわからないのがまた苛立たしいのだが。『THIS IS US』では自分を客観視して、つまり一歩引いて自分を眺めて気の利いたジョークを飛ばしているキャラが多いが、それらが大して面白くないのは、多くのことでは一歩引いて見ているくせに肝心要のところではまだマジでいられることの傲慢さが原因だろう。