ケストナー『五月三十五日』感想
ケストナーの『五月三十五日』を原書("Der 35. Mai")で読んだ。ケストナーの児童書はこれで3冊目。どうやら日本語版は絶版らしいが、結構よかった。
5月35日という実際にはない日に、主人公の少年とその叔父が南太平洋へと馬に乗って旅をする。目的地に至るまでにたくさん不思議なところを通って……というようなあらすじ。
150ページぐらいだが、実際はかわいらしい挿絵が大量にあるのでその半分くらいかもしれない。語彙は簡単だろうと踏んでいたが、色々な「不思議の国」のバリエーションがあって、その分語彙も幅広く、若干調べるのが面倒なくらいの時があった(ま、外国語だから当然っちゃ当然だが)。
内容の感想としては、子ども向けなのに結構容赦ない描写、ブラックユーモアがあって、もちろん好感を持った。虐待されている子どもが、逆に親を虐待して躾けている「逆さまの世界」や、全てがオートマチックに動く都市の工場では、牛が穴に入ったら自動的に肉製品、乳製品、革製品になって出てくる……
上のブラックユーモアもそうだが、多分大人じゃないとわからないのは、主人公の叔父さんの悲しさだろう。彼は未婚で、妻も子供もいない。甥の父親(つまり兄弟)からは、お前はまだ子供だ、と言われる始末。ラスト、彼は寝ている甥に「おやすみ、息子よ」と言うが、しかし、「それでもこの子は彼の甥でしかなかった」という一文で本書は締めくくられている。
Der 35. Mai Oder Konrad Reitet in Die Sudsee.
- 作者: Erich Kastner
- 出版社/メーカー: Cecilie Dressler Verlag
- 発売日: 1991/01/01
- メディア: ハードカバー
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